かつて、日本人は、お陰様、お世話様、お互い様と声をかけ、挨拶をした。
この根底には、日本人の心、思いが込められている。
それは、恩である。
恩というのは、人に強要されるものでも。
押し付ける事でもない。
自然に感じる日本人の思い、情けである。

恩ぎせがましいことは、言うなってさ。
散々、親父に言われて育った。
恩なんてな。
口に出さずとも、やくざだって一宿一飯の恩と言ってな。
犬だって、三日飼えば、恩を忘れない。
日本人なら恩なんて言わずともわきまえてるものさ。

恩には、主従も、上下もない。
人として感じる感謝の念である。
最近、この恩が忘れられてきた気がする。
金の為なら、義理人情もない。
簡単に恩人や信義を裏切って恥じることがない。

恩ある人の顔に泥を塗る事になるから不義理はできない。
義理とは、人として通すべき筋、道理。
日本人は、恩を感じるからこそ、何も言わなくても信じあえた。
道理が通らなくなったら、この世は闇よ。
今は、筋のとらない事が多すぎる。

親父からは、営々と築き上げた信用も、一瞬の心得違いで失う。
商売人は、恩と信で成り立ってきた。
だから、日頃お世話になっているお客様、社員、隣近所、親戚、友達、師の恩、親の恩を忘れるな。
今あるのは、そういう方々の恩だ。お陰なのだ。
人と人との縁を大切にしなければいけない。
お世話になった人、面倒になった人の恩を忘れるな。

戦争中は恩を悪用した輩がいるけれど。
恩というのは、権力者が強要する事ではない。
信頼の礎なんだ。

自分の子供の頃は、まだ、焼け跡が残ていて。
皆、貧しく。
その日の食べ物にも困っていた。

皆、貧しかったけど、肩を寄せ合って、助け合って、生きてきた。
住む所もなくて転がり込んできた人。
住む所がないから、住み込みで働いている人達と同じ釜を突いたものだ。
それでも貰い物があれば、おっそわけと言って分け合っていたし。
国のお袋が送ってくれたって。
服もお下がり、ツギハギだらけ。
他人の名前が書いてあった。
でも恥ずかしいなんて思ったことはない。
今は豊かになったけど、千円、二千円で簡単に恩義や信義を弊履のように捨て。
一向に、恥じることがない。
心は貧しくなった。

恩知らず。
恩知らず。
恥知らず。
恩知らずだけにはなるな。
苦し時に助けてくれた人への恩義を忘れてはならない。
困った時に、世話になった人の恩は大切にしろよ。
信義を裏切る奴は、人でなし。
お互い様だ。お互いさま。
お世話になります。
迷惑をかけます。
よろしくお願いします。
お任せします。
お陰様、お世話様。

叛逆の美学だなんて、いつの頃からか。
反抗したり、逆らったりすることを称賛する風潮が生まれたのかな。
戦争に敗けたからかな。
日本人としての誇りなんて一文にもならない。
確かにね。
困っている人がいたら助けてやるなんて阿呆くさいのかもしれない。
俺は、そうは言っても日本人だからね。
日本人としての誇りは捨てられない。

俺は、やっぱり日本人だ。
恩知らずにはなりたくない。
恥しらずにも。
古い人間なのかな。
皆からすると馬鹿みたいかもしれないがね。
信義や仁義は守りたい。

俺のとっては、共鳴共感が第一。
人生、意気に感じる。
志を同じくする事さ。
親父達は、俺たちが頑張れるのは、男意気、意気地あるからさって。
根性のない奴は駄目だ。
それは、安っぽい根性論なんかじゃない。
最初は、我慢、我慢。基本を身につけろ。
だから、最初は、黙って素直に従え。
男は黙って。

俺もあこがれたけど。
安っぽい感傷と言われればね。

今は、恩なんて。
利用価値がなければ。
愛情だって利用価値がなくなれば捨てていく。

恩なんて言葉は死語になってしまったけど。
今どき、恩だ義理なんていても始まらない。
自分の野望の為には義理も筋もない。
そんなこと言っていたら、金なんてもうけられないよ。

最近は平気で、立身出世のため、私欲の為なら、恩ある人に背を向けて徒党を組む。
哀しよな。
義理を欠くな。筋を通せと言ってもな。
仕方ないか。

でもね、俺は、旧い人間。
日本人の末裔だからさ。
古めかしとかさ。ダサいとかさ。
時代遅れと言われてもね。
信義、恩義を重んじて、世話になった人を裏切らない。
誠実一路。義理をかかさず、人情を重んじる。
筋を通す。
そんな会社にしたいね。
助けを求めても知らんぷりする様な薄情な会社にはしたくはないね。
助け合って生きてきたんだもの。
仲間を信じたからこそここまでこれたんだもの。